大阪地方裁判所堺支部 昭和44年(ワ)123号 判決 1971年8月12日
原告
田中芳男
ほか一名
被告
和歌山トヨタ自動車株式会社
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1 被告は原告田中芳男に対し金九、二八三、三六〇円、原告田中みちに対し金七、五一九、〇〇〇円、および右各金額に対する昭和四三年一月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金銭を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1 訴外亡田中強は左記交通事故によつて死亡した。
イ 発生日時 昭和四三年一月一三日午前〇時五五分項
ロ 発生場所 和歌山市餌差町一丁目一〇番地先路上
ハ 加害車両 大型貨物自動車(和一の三〇八七号)
ニ 右保有者 被告会社
ホ 右運転車 訴外久徳修己
ヘ 事故の態様 訴外亡田中強が自動二輪車を運転し、現場付近を北進中、被告会社被用者訴外久徳修己が車道左端に駐車させていた大型貨物自動車に衝突した。
2 訴外久徳修己の過失
本件事故は、同訴外人の次の過失に基くものである。
イ 同訴外人は、大型貨物自動車を駐車制限箇所(制限時間は一二時間以内)に昭和四三年一月一二日午前一一時から翌一月一三日午前〇時五分まで約一四時間駐車し、制限時間を約二時間超過した。仮に、被告主張のごとく一月一二日午後八時三〇分から駐車を開始し、本件事故発生までの経過時間が約三時間半としても、「自動車の保管場所の確保等に関する法律」五条二項二号に違反した。
ロ 同訴外人は夜間道路に駐車するに当つて尾燈を点燈しなかつた(道交法五二条違反)。
ハ 同訴外人は道路幅六米(左側半分)の所に幅二・二五米の車両を尾燈を点燈しないで放置し、道路交通の安全性を阻害した(一般注意義務違反)。
3 被告会社の責任
イ 自賠法三条
ロ 民法七一五条
4 原告らの損害
イ 被害者の逸失利益と慰藉料
a 逸失利益 七、〇三八、〇〇〇円
四万円(給料)+一万円(歩合)-二万円(生活費)×一二(月)×一九・五五(就労可能年数の係数)=七、〇三八、〇〇〇円
b 慰藉料 三、〇〇〇、〇〇〇円
ロ 父(原告芳男)の積極損害
a 護送費および屍体処置料 六、七八〇円
b 葬式費 七五七、五八〇円
計 七六四、三六〇円
ハ 父母(原告両名)の慰藉料
a 原告芳男の慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円
b 原告みちの慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円
ニ 弁護士費用
一、〇〇〇、〇〇〇円(原告両名各五〇〇、〇〇〇円宛)
ホ 本訴請求額
a 原告芳男の損害
相続した損害 五、〇一九、〇〇〇円
葬式費等損害 七六四、三六〇円
慰藉料 三、〇〇〇、〇〇〇円
弁護士費用 五〇〇、〇〇〇円
合計 九、二八三、三六〇円
b 原告みちの損害
相続した損害 五、〇一九、〇〇〇円
慰藉料 二、〇〇〇、〇〇〇円
弁護士費用 五〇〇、〇〇〇円
合計 七、五一九、〇〇〇円
c 右各金額に対する昭和四三年一月一四日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金
5 時機に後れた攻撃防禦方法の却下の申立
被告は昭和四六年二月二七日の最終口頭弁論期日において突如として、本件駐車は「運行に非ず」。従つて、被告に自賠法三条責任は生じない旨の主張をした。そのため、口頭弁論は一回延期のやむなきに至つた。このような被告の主張は正に時機に後れた防禦方法であるから、却下の申立をする。
二、請求原因に対する認否
1 請求原因1のイないしヘは認める。
2イ 請求原因2のイは否認する。訴外久徳修己は契約解除により訴外井本勉から引渡しを受けた本件車両をその翌朝被告会社中古車部に引き渡すべく、昭和四三年一月一二日午後八時三〇分から駐車を開始したもので、制限時間に違反していない。
ロ 請求原因2のロは争う。本件車両が夜間道路に駐車するにあたつて、尾燈の点燈をしていなかつたことは認めるが、本件車両は後部反射器を設置しているので、夜間道路に駐車するにあたつて、尾燈の点燈は要しない。
ハ 請求原因2のハは否認する。本件は法で許されている通常道路での駐車であつて、これが過失になることはない。
3イ 請求原因3のイは争う・本件駐車の場合は、運転手その他の者が乗車していないので、自動車を当該装置の用い方に従つて用いておらず、自賠法三条にいう運行に該当しない。
ロ 請求原因3のロは争う。
4 原告らの損害は知らない。
5 免責の主張
本件事故の発生につき被告会社または訴外久徳修己には全く過失がなく、本件は訴外亡田中強の泥酔運転による一方的過失事故であり、なお本件車両には、構造上、機能上の欠陥または機能の障害がない。
第三、証拠〔略〕
理由
一、請求原因1のイないしへは、当事者間に争いがない。
二、訴外久徳修己の過失について
1 原告は、訴外久徳修己が本件車両の駐車を開始したのは、昭和四三年一月一二日午前一一時であると主張するが、〔証拠略〕によつても、右事実を認めるに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。かえつて、〔証拠略〕によれば、訴外久徳修己が駐車を開始したのは、同日午後八時頃と認めることができる。よつて、訴外久徳修己は原告主張のごとき駐車制限時間を超過しなかつたことになる。もつとも、右は、原告主張のとおり自動車の保管場所の確保等に関する法律五条二項に違反したと認められるが、これと本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。
2 訴外久徳修己が本件車両を夜間道路に駐車するに当つて尾燈を点燈しなかつたことは、当事者間に争いがない。しかし、〔証拠略〕によれば、本件車両には、車両の保安基準による後部反射器を設置していたことが認められる。従つて、本件の場合、夜間道路に駐車するにあたつて尾燈の点燈は要しないと解されるから、訴外久徳修己に道交法五二条違反の点はない。
3 〔証拠略〕によれば、訴外久徳修己は幅員一二米の車道の左端に車幅二・二五米の本件車両を駐車させたことは明らかであるが、これをもつて、直ちに本件事故と相当因果関係があると認めることはできない。
三、訴外田中強の過失について
〔証拠略〕によれば、訴外田中強は昭和四三年一月一二日午後六時半頃勤務先を退社し、同日午後八時頃から午後一二時頃まで飲食店で飲酒し、血液一ミリリツトルにつき一・二九ミリグラム以上のアルコールを身体に保有している状況で、同僚を単車の荷台に同乗させ、これを運転して本件事故現場付近に差し掛つた際、前方注視義務を怠り、漫然直進したため、道路に駐車中の本件車両に自車を衝突させてしまつたことが認められ、〔証拠略〕中これに反する部分は採用しない。従つて、本件事故は訴外田中強の一方的な過失に基くものである。
四、時機に後れた攻撃防禦方法の却下の申立について
被告が、本件口頭弁論の終結に近い第一〇回口頭弁論期日において、本件駐車は「運行に当らない」から、被告に自賠法三条の責任はない旨の主張をしたことは、訴訟上明らかである。そして、そのこと自体、被告の重大な過失により時機に後れて提出した防禦方法であることを推認するに充分である。しかし、本件において、右防禦方法の提出によつても、新たな証拠調を要するものではないから、特にそのため訴訟の完結を遅延させると認めることはできない。よつて、原告の右申立は理由がない。
五、駐車と運行について
被告は、駐車は運行でないと主張するが、自賠法三条の責任は、本件のごとき駐車中の事故を含むと解するのが相当であるから、被告の右主張は採用しない。
六、免責の主張について
前記のとおり本件事故は、被害者である訴外田中強の一方的過失によるものであつて、〔証拠略〕によれば、その他本件車両に構造上の欠陥または機能の障害もなかつたことが認められるので、被告には自賠法三条、民法七一五条の責任は生じない。
七、結論
よつて原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、民訴法八九条九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 新月寬)